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オルゴールの夜

6 テーマパーク


 このテーマパークに家族以外の人と来るのは初めてだった。
 かおちゃん夫婦や章ちゃんと一緒に来て、姪の佐緒里ちゃんの子守をするというのが私の定番。かおちゃんも、義兄の賢さんも、章ちゃんもジェットコースターが大好き。苦手な私は、その間、佐緒里ちゃんと遊ぶのだ。
 まだ2歳の佐緒里ちゃんは可愛くておしゃまさんで、自分でも叔母馬鹿だなあと思いながら、買い物をしたり、ゆっくりの乗り物に乗ったり、ほんの少し、母親の気分を味わう。
 かおちゃんに言わせると、子どものいる生活は毎日が体力勝負なんだそうだけど。男の子ならまだしも、佐緒里ちゃんでもそうなのかなと思いながら、そういう生活に自分を当てはめると、すぐにその想像はぼんやりしてしまう。
 本当になるとは思えなかったし、積極的にその相手を探そうとも思わなかった。それは、小野寺さんたちとのことのせいだけじゃなく、あまり人と話すのが得意じゃなくて億劫だったし。
 でも、一番大きかったのは、今の静かな生活を失いたくないという怯えだったんだと今は思う。その頃ははっきりわかっていなかったけど。
 そんなふうだったから、長谷部さんと二人で歩きながら、いつもとは違う新鮮な気持ちを味わっていた。
 私服の長谷部さんはやっぱり学生みたいで、それに釣られて、私も少しだけ若い気持ちになっていたのかな。いつもより私から話しかけていたし、長谷部さんもいろんなことを話したり、一緒に乗り物に乗ったり、パレードを見ながらはしゃいだ。とても楽しくて、時間が過ぎるのが早かった。
 パーク内のお店の一角に、オルゴールのコーナーがあった。ガラス細工や美しい陶器のオルゴールとは別の棚に、丸い木箱のオルゴールがいくつも置いてあった。
 はめ込みの細工の可愛らしい箱に、曲名のラベルが貼ってあった。流行の曲の中に懐かしい曲名を見つけて、手にとった。ねじを巻き、蓋をあけると、独得の音が子守唄のメロディを奏でた。
「それ、気に入ったの? 欲しい?」
 何度も開いたり、閉じたりして、聞き入ってしまっていた。驚いて元の場所に戻すと、長谷部さんはそれを手にして、鳴らした。曲名を思い出そうとしているみたいだったけど、苦笑して、私を見た。
「これ、何の曲だっけ?」
「童謡です。ゆりかごの歌。子守唄です」
 歌詞を聞けば思い出すかなと思って、少しだけ口ずさんだ。子供の頃から好きな曲だった。
「記念に買おうよ。もし篠田さんが眠れない時用に」
 長谷部さんがそう言って、止めるまもなくレジへ行き、戻ってきて、楽しそうににこにこしながら、告げた。
「他のものも何か買おうよ。お揃いがいいな」
 服やグッズやアクセサリー、インテリア小物。どれもここのキャラクターが何気なく、またははっきりとあしらってある。長谷部ささんが手にとるのはお揃いのものばかり。何度も私に確かめる。
「こんなの、どう? 好き? それとも、もっとシックなのがいい? 普段使うようなのがいいんだけどなあ」
 どう答えたらいいか、わからなくて、結局、お揃いのキャラクターのストラップを買ってもらった。どうしても自分が買うと言って、聞いてくれなかった。
 夜のパレードの後、ベンチに座った。
「今、つけちゃおうよ」
 長谷部さんがお揃いのストラップを自分のと、私の携帯につけてくれた。布ぐるみの飾りが1個だけついてた私の携帯で、笑顔のキャラクターが揺れる。それに合わせて、小さな鈴が鳴る。思わず笑みがこぼれてしまう。お揃いなんて、初めて。
 夜のテーマパークは照明が控えめで、寄り添っているのが当たり前みたいに、ベンチや道は二人連ればかり。私も他の人が見たらそう見えるのかな。そんなことをぼんやり思いながら、今日一日のことを思い返してた。
 いつのまにか、ベンチにもたれていた私の肩に長谷部さんの手がのっていた。
「今日の記念。それから」
 そう言って、そのまま引き寄せた私の唇にキスをした。携帯で話してる時よりももっと近くで声がした。
「また来ようね、二人で」


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