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オルゴールの夜

22 二人の真実


 その時、長谷部さんが私を見つめたまま言った。
「あらためて、お願いします。俺と、つきあって下さい」
 反射的に、否定した。顔を左右に振ることで。
 でも、長谷部さんの言葉は止まらなかった。
「今度こそ、本気で言う。紫子と一緒にいたい。好きだから、別れたくない。だから、もし、俺を許してくれるなら、まだ嫌いじゃなかったら、俺と一緒にいて下さい」
 長谷部さんの声は震えていた。
 最初の申し込みの時のことがぱっと浮かんだ。同じ席、同じような言葉なのに、なんて違うんだろう。一言一言が胸にしみ込むようで、熱くて、切なくて、嬉しくて。
 長谷部さんは、私が許してないと思ってる。それでも、一緒にいたい、好きだから、別れたくないと思ってくれるのね。そう言いたかったのは私と言ったら、信じる?
 本当は、別れるなんて言いたくなかった。ずっと一緒にいたかった。長谷部さんに……和真に見つめられて、笑いあって、幸せな気持ちのままでいたかった。
 だから、最初の嘘に蓋をしたままでいるのが怖くて、いつ失うのかが怖くて私は逃げた。そんな私を許してくれる? そんな私でも一緒にいていいの?
「本当……に?」
 口からこぼれた。座り直していた長谷部さんが勢い込んで言った。
「本当だよ。全部、本当だよ。信じて。今、言ったことは全部、本当なんだ。今さらだけど、でも、紫子と別れたくないんだ。だから」
 もう顔を上げていられなかった。涙がこぼれてきて、両手で顔を覆った。
 ありがとう、ありがとう。ごめんなさい。嬉しくて、申し訳なくて、恥ずかしくて、胸がいっぱいで。
 もういいのかもしれない。最初がどうでも、他の人がどう思っても、他のことは何もいらない。ただ、私が好きで、長谷部さんが好きだと思ってくれれば、それだけでいいのかもしれない。それが全てで。
 長谷部さんが隣に座った。どきっとした。肩をそっと抱いてくれた。静かな声が耳元で聞こえた。
「ごめん。勝手言って。紫子がしたいように、するよ。俺の気持ちのことなんか、考えなくていい」
 私がしたいように? それなら……。
 涙を拭った。今度は私が勇気を出す番。本当の気持ちを言う番。暗い表情の長谷部さんの顔が間近にある。もう、そんな顔をさせたくないと心から思う。
「信じる。だから、一緒にいて下さい。私も好きです」
 最後まで言えなかった。一緒に、までしか。息もできないくらい抱き締められてしまったから。
「ありがとう」
 くぐもった囁き声が何度も聞こえた。
 ううん。それを言うのは私の方なの。ありがとう。許してくれて。私を好きでいてくれて、ありがとう。
 好き、和真。好き。
 それだけを思う。和真に抱き締められながら。

  <終>

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