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オルゴールの夜

21 告白再び


 これで聞く事は全部だと思った。私が犯した罪もわかったし、一番悪いのが誰なのかも確かめられた。これで、お互いに忘れてしまえば、それで全て終わらせられる。きっと、今の痛みも。
 でも、長谷部さんの声は続いた。
「でも、変わったんだ。すぐに、橋川さんとか鳥羽とかは関係なくて、紫子と一緒にいるのがすごく楽しかった。好きになってた」
 息を飲んだ。
「毎週、どこに行こうかって考えて、紫子が喜んでるのを見られるのが嬉しくて。だから、けじめをつける意味で鳥羽に『もう橋川さんとのことは関係なく続けることにした』って言ったんだ。それで、そっちは終わったと思い込んでた」
 好きになってた? 続けることにしたって言った? そっちは終わったと思い込んでた……。
 耳を疑った。自分に都合がいいように聞いてるんじゃないかと。だって、長谷部さんを後戻りできないようにしてしまったのは私なのに。苦しめてしまったのに。
「橋川さんたちが言ってたことってこのことだろ? おととい、そのこと、からかわれたんだ。だから、紫子が言った意味がわかった」
 橋川さんと鳥羽さんの会話を思い出した。からかわれたって、それは。やっぱり、私は長谷部さんと一緒にいちゃいけないと思った。もう、ここにはいられない。
 そう思って立とうとした時、長谷部さんの強い声がした。
「待ってくれ。この前、『迷惑をかけられない』って言ったよね?」
 はっとした。私……そんなことを言ってたの? なんて言い方をしてたんだろう。あの時、別れるということを言うのに精一杯だったけど、でも、そんないらないことを言ってたなんて、気がつかなかった。
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 思わず、顔を上げた時、長谷部さんと目が合った。真っすぐに私を見つめてる。動けなかった。
「あの時、紫子にばれたと思って、そのことでいっぱいだったけど、橋川さんと話してて、おかしいって気がついた。迷惑をかけたのは俺の方なんだ。なのに、紫子は逆のことを言ってた」
 逆? ううん。迷惑をかけたのは私なの。逆じゃない。そう言いたいのに、声が出ない。
 長谷部さんがテーブル越しに少し身を乗り出した。
「迷惑なんて思ってない。紫子は全然、迷惑なんかじゃない。紫子は、俺が無理してつきあってたと思ったんだろ? 命令されたからだって。だから、あんなふうに言った。別れようとした。そうなんだろう?
 でも、違うんだ。そんなふうに思わせたのは謝る。それに、最初、嘘ついてたことも全部。でも、途中からは本気だったんだ。迷惑だなんて全然、思ってない。あの二人のことなんか全然、関係ない」
 長谷部さんが強く言い切った。
 私がいなかったら、長谷部さんは苦しまなくてもよかったのに。そう思うのに。そう言ってあげなくちゃいけないのに。
 目頭が熱くなるのをこらえるのが精一杯だった。
「全部、謝る」
 長谷部さんが頭を下げた。
 わかってる。わかってるの。長谷部さんが私に罪悪感をもってるのはわかってるから、もう何も言わなくていいの。私も悪いんだから。
 心の中で何度も繰り返すのに、口から出てこない。だって、心の中には、長谷部さんの言葉に喜んでいる自分がいたから。これ以上ここにいたら、本当の気持ちを言ってしまいそうだった。


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