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やっぱり俺は馬鹿なんだと思う。

8−2 夜

 篠田さんは俺の腕の中で俯いて、そっと俺の肩に額をあてた。
「私も……好き」
 小さな、本当にかすかな声が聞こえた。
 俺はこの時どうかしてたんだと思う。ベッドに押し倒して、何度もキスして、焦る手で篠田さんの服を脱がせた。誰かが見てたら、無理矢理、襲ってるようにしか見えなかっただろう。目の前にいる女性が欲しくて、抱きたくて、愛しくて、触れたくて、ただただ早く繋がりたかった。
 愛撫しながら、色白の肌に赤い痕を残した。強ばっていた篠田さんの体が次第に反応し、吐息にかすかに甘い声が混じるようになって、その声と香りの甘さが俺を痺れさせた。全てを味わいたかった。篠田さんが濡れてるのがわかって、嬉しくて、そのまま入れようとして、はっとした。いくらなんでも、このままはまずいよな。それに、もしかしたら、本当に初めてかもしれない。それより、してもいいかどうか、そもそもきいてないだろ、俺。焦って、篠田さんの顔を間近で見下ろした。
「いい……よね? 紫子さん……苦しくなったら、言って……無理しないで」
 ほんのり頬が染まってる篠田さんは、少し幼く見えた。それでいて、艶やかな、柔らかな色気があって。こんな篠田さんを、紫子さんを知ってるのは俺だけなのか。それならいいのに。
「はい……長谷部さん」
 胸を鷲掴みにされるような寂しさに襲われた。
「違うっ、和真だよ。名前で呼んでくれよ。さんなんていらないっ。俺も、紫子って呼ぶから」
 もしかしたら泣きそうな顔をしてたかもしれない。そう呼ばれることで、俺は篠田さんが俺のものに、本当の俺の彼女になるような気がした。なんで今まで、俺は紫子って呼ばなかったんだろう。こんなに好きになってたのに。前の彼女はあんなに簡単に呼べたのに。俺の顔を何度か見てから、篠田さんが恥ずかしそうに囁いた。
「和真」
 湧きあがった喜びのまま、急いで支度をして、篠田さんを貫いた。小さな呻き声が聞こえて、篠田さんの苦しそうな顔が見えたけど、その柔らかさと熱さとに俺は理性も何かもかも丸ごともっていかれて、欲望と感情のまま、篠田さんを嵐の中に放り込んだ。止めようがなかったし、止まりたくもなかった。篠田さんを鳴かせ、その声に酔って、何度も求めた。途中、何度も、俺の名前をかすかな甘い声で聞いた。二人が疲れて眠りに落ちる前、最後に聞いたのは、篠田さんが優しく俺の名前を囁く声だった。
 やっぱり、俺は馬鹿だったし、ガキなんだと思う。そんな年じゃないと自分では思ってたんだけど。


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