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やっぱり俺は馬鹿なんだと思う。

2 紫子さん 

 俺と篠田紫子(しのだゆかりこ)さんは同じフロアで仕事をしている。俺は営業の下っ端で、篠田さんは総務の中堅だ。新人だった去年、書類のことで何回か助けてもらったから、悪い印象はなかった。 あらためて篠田さんを見ると、やっぱり、本当に静かで、おとなしい目立たない人だった。
 他の女性社員、例えば、俺の同期の新島恵理と比べて髪型や化粧が控えめなせいもある。新島の話では、お喋りの時ももっぱら聞き役で、特に親しい友達はいなくて、9年目といえば後輩に睨みを効かせても全然おかしくないのに、そんなことは全くないそうだ。だから、後輩に嫌われたり、恐れられたりしない かわり、重く見られることもあまり、ない。
「困った時は篠田さんが一番わかってるから、 みんな、あてにして聞いちゃうのよ。本当は頼りになる人だと思うのよねえ。でも、欲がないんだもん、篠田さんって。内気っていうか、控えめっていうか。もったいないよね。で、なんで、長谷部君は篠田さんのこと聞くの?」
 新島の追及をなんとかごまかした。
 賑やかなタイプとばかりつきあってきた俺にすれば、篠田さんは初めてのタイプだ。私的な話もしてない後輩から交際を申し込まれるなんて予想外だろうから、断ってくれるだろう、そうすれば橋川さんに言い訳できるとたかをくくっていた。 まさかの事態だった。


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