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やっぱり俺は馬鹿なんだと思う。

14 俺

 あれから、俺は変わった。帰りや休憩時間にも一緒にいたり、惚気てみたり、要はおおっぴらにしたってことだ。運良くうちの会社は社内恋愛にうるさくない。紫子は恥ずかしがっていたけど、俺としては隠す理由がないんだから、年下のわがままという名目を利用することにした。
 鳥羽や橋川さんとは自然に距離を置くようになった。紫子のことだけでなく、やっぱり性格や考えが合わないのは無理しないことにしようと思ったからだ。仕事のつきあいだけでいい。もし睨まれたとしてもはねかえせるような男になりたいと思った。
 こう思うようになったのは、やっぱり紫子のおかげだ。紫子を大事にするためには俺も成長しないといけないと思った。俺が仕事で認められれば、紫子も良く見てもらえるだろう。恋愛に寛容だと言っても、やっぱり、みんながそうだってわけじゃない。俺が年下だから、よけい交際をからかわれたり、嫌味を言われたりすることがあるらしいんだ。結婚に焦って若い男に手を出したという憶測をさもさも本当のように話してるやつがいるって知った時は腹が立ったし、呆れた。俺自身も、女より仕事に精を出せってはっぱをかけられたことがある。だから、仕事をきちんとこなして、文句が言えないようにしたいと思った。俺のせいで、紫子が悪く言われるなんてまっぴらだ。
 時々、まだ紫子と出会ってない、紫子にふさわしい本当の相手がやっぱりいるんじゃないかと思うことがある。その誰かは本当に世界のどこかにいて、もし紫子が出会ったら、そいつに奪われてしまうかもしれない。それは、俺の自信のなさの現れでもあるし、同時に、本当かもしれないことなのだ。
 だから、俺はもっと、紫子にふさわしい男になりたい。そいつみたいにっていうのは変だけど、そいつに負けないように、ずっと紫子を抱いていられるように、俺は変わりたい。そいつはきっと、一生、俺のライバルで、目標なんだと思う。
 こんなことを考えてる俺は、橋川さんや鳥羽に言わせれば、やっぱり馬鹿なのかもしれない。でも、俺は紫子と出会って、何もなかった馬鹿から、何かになりたい馬鹿になった。もし、今の俺が馬鹿なら、ずっと馬鹿でいたい。紫子と一緒にいたい、愛し続ける馬鹿でいたい。
 紫子の寝顔を見てて、やっぱり、そう思う。

  <終>


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