back  home  novel index  next


やっぱり俺は馬鹿なんだと思う。

12 悪魔

 週明けの月曜、仕事で話し掛けると、篠田さんは以前のように普通に対応してくれた。俺と目が会うことはなかった。
 仕事に追われている間だけは忘れられた。橋川さんが昼飯時に一度だけ笑って言った。
「篠田さんって、はずれだったんだって? 悪かったな。で、続けるって? 物好きだな、長谷部。あんなんだったらいくらでもいるだろうにさ」
「長谷部、お前、どうすんの? あんな地味なお局に本気? 馬鹿じゃねえの」
 二人は俺たちがつきあってると思っていた。お前たちのせいで、とかっとなって言い返そうとして、舌がもつれた。結局、何も言えなかった。
 部屋で携帯ストラップを見ていると浮かんでくる。遊園地で見た笑顔や、すんなりした指、静かに微笑みかける目元、キスに漏らした吐息、熱い頬、俺に応えてくれたほっそりした体、俺の名前を囁く声。こんなに好きになっていたことを思い知る。
 失ったのは、自業自得だ。そもそも最初から間違ってたのに、嘘を隠しきれると思いこみ、その罪自体をいつのまにか忘れていた。その罰だ。
 俺は篠田さんにふさわしくない。わかってる。彼女には、もっと大人で誠実で、もの静かで、優しく包み込むような、そんな男が似合ってる。俺みたいな勝手なガキなんかじゃ、ない。今まで、篠田さんが出会ってないだけで、本当はそういう男が隣にいないといけなかったんだ。そうしたら、こんなことも起こらなくて、篠田さんも辛い思いをせずにすんだ。なんで、いないんだ。今、抱いて、慰めてやらないんだ。一体、どこで、ぼやぼやしてるんだよ。
 考えているうちに、この世界のどこかにいるはずのその男に、腹が立ってきた。悔しくて、後悔に飲み込まれそうになる。いない男にやつあたりしてるなんて、やっぱり、俺は馬鹿なんだと思う。


back  home  novel index  next



Copyright(c) 2008-2018 SUZUYA all rights reserved.