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やっぱり俺は馬鹿なんだと思う。

11 夜のオルゴール

 アパートの通路に俺は立っていた。もう何度もインターホンを鳴らしてる。暗い部屋の前でこんなことしてる俺は、十分に怪しい奴だな。返事はない。ドアを背にして座って、携帯をかける。ドアの向こう、部屋の中でかすかにオルゴールの音がする。ゆりかごの唄だ。俺の着メロ。篠田さんは確かに中にいる。中にいるのに、すぐそばにいるのに、届かない。
 小学生の頃、親父に家を出された時みたいだ。あのときは、大声でわめいて、謝っても夜中まで入れてもらえなかった。兄貴が仲裁に入ってくれたんだったかな。
「和真がいけないんだから、もうするなよ。忘れるなよ。明日、ちゃんと相手の子にも謝れ」
 あの時は、俺がひどいことを言って泣かせたせいで、クラスの女の子が学校を休んだんだ。同じだ。俺、成長してないんだな。兄貴にもさんざん言われたのに。
「女の子、泣かすのは男らしくないんだぞ。父さん、いつも言ってるだろ。そんなやつは最低だって」
 一緒に謝ってくれる兄貴はここにはいないのに。大声を出したら迷惑になるから、それだけはしない。でも、篠田さんに、紫子に会いたい。ちゃんと謝って、全部喋って、今度こそ、本気の気持ちを言いたい。許してもらえなくても。
 何度もリダイアルして、オルゴールの音を聞いた。部屋の中からは他の音がしない。ふと、思った。いやがらせになってないか? よけいに酷いことしてるんじゃないのか? 俺、最低最悪だよ、兄貴。俺はやっぱり馬鹿なんだと思った。
 足が重かった。アパートの階段を降りて見上げると篠田さんの部屋の灯りはついてなかった。カーテンが夜風に揺れてるのが見えた。もう、あの部屋には戻れないんだ、多分。


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