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びっくり箱〜顛末は記憶の彼方

5 これも縁のうち 

「受理するって言った。思うだけでもって優里が言ったのを、俺が訂正したんだ。優里のことは割と気に入ってたから、念のため抱いて相性を確かめたい。大事だろ? 優里だって案外がっかりしたかもしれないしさ。で、じっくり一晩確かめられたから、つきあうことにした。これで、優里は今から俺の彼女決定」
 嘘だ。反射的に否定した。
「そんなはずないです! だって、成瀬さん、彼女いるのに、二股になっちゃうじゃないですか。私、そんなの嫌です」
「いないよ」
 しれっと言ってのけて、成瀬さんが耳元で囁いた。
「昨日、抱く前に、3ヶ月前からいないって説明したら、なんって答えたか、優里、覚えてないだろ。『だったら、彼女にして下さい。1週間でも、1日でもいいです』って言ったんだよ?」
 真っ青になった。絶対、私、死んだ人みたいな顔してたと思う。そんなやばい女みたいな台詞吐いてたなんて、やっぱり穴掘って埋まろう。埋まって……でも、埋まったら成瀬さんのこと、見ることもできなくなっちゃう。それは嫌かも。ううん、今はそんな場合じゃなくて。
「優里、ちゃんと話聞いてるか? もしかして、優里の方からキャンセルってことになったのか?」
「えっ、キャンセル?! ち、違います、でも、本当に……本当……な気がしなくて……昨日の夜のこと、覚えてないし……」
「ま、覚えてなくても、決定しちゃったから、納得しなさい。まてよ……しらふの時にやり直すのもありだな……ってことで、優里、今日の予定は?」
「予定はないです、たしか、はい、ないです」
 昨日の残業がんばったせいで、今週末はちゃんと2連休だった。のんびり朝寝坊して、洗濯、掃除、料理なんかがんばっちゃおうかな、日曜日はショッピング、なんて昨日のお昼には思ってた。まさか、こんなことになるなんて思わずに。
 成瀬さんが時計を見て言った。今は9時半。
「じゃ、そうだな、12時でいいか、車で迎えに行くから遊びに行く格好しといて。あと、泊まれる用意もね。昼食デートからやり直しってことにしよう。楽しみだなあ。ちょっと新鮮な気分」
 私の戸惑いをそっちのけに予定が埋まった。
 まだなんだか不安だけど、成瀬さんが嘘をついてからかってるふうじゃない。本当なんだ。本当に、本当なんだ。成瀬さんと私、デートしたり、泊まったりするんだ。
 成瀬さんの言葉を繰り返してみる。成瀬さんの彼女、彼女決定、泊まれる用意、デート……くらくらしてくる。顔が熱くなってきた。今更、引き寄せられて触れてる部分の温もりに気づいて、肩を引き寄せる手も弱くなくて……。夢じゃないんだよね。
「どうした? まだ信用できないか?」
 成瀬さんの顔を見る。面白そうに私を見てる。
「ま、ここからはゆっくりやろう。せっかく、こうしてつきあうことになったんだ。楽しまないとな、これも縁ってもんだ」
 そう言って、成瀬さんが私の耳元に軽くキスして、肩から手をはなしてくれた。
「それじゃ、帰るか」
「……はい」



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